[inGENERAL interview]ホワイトマウンテニアリング 相澤陽介 インタビュー
究極のリラックスウェアとして[White Mountaineering(ホワイトマウンテニアリング)]から新たにデビューしたライン“Repose Wear(リポーズ ウェア)”が生まれた背景
デザイナーが「いま着たい洋服」
2020年8月中旬、[White Mountaineering(ホワイトマウンテニアリング)]のデザイナー、相澤陽介氏のSNSから、ルック画像とともに以下のようなメッセージが発信された。
“僕が考える究極の普段着。テストも含めて毎日着ています。単純なオーバーサイズではなく、スタンダードなパターンから動きにまつわる部分の寸法を変え、必要ない箇所は変えない洋服作りを根本から考えたリラックスウェア「Repose wear」ラインです。今着たい洋服を作りたいなと思っています”
このポストがあったのが2020年8月18日。そしてその発売日は8月29日だった。通常アパレルの新ライン発売の告知は、展示会のある半年前から数ヶ月前に行われるのが普通だ。それがわずか10日後に店頭に並ぶという早さはもちろんのこと、デザイナー自身が「今着たい洋服を作りたい」というキーワードに『inGENERAL』編集人は即座に反応してしまった。見逃していたのだが、この“Repose Wear”は5月に最初のコレクションが発表され、この8月に追加のラインナップがアナウンスされた形だった。
相澤陽介氏は多忙なことでも知られているデザイナーだ。[ホワイトマウンテニアリング]としてのパリコレクションでの発表や数々のコラボレーションはもとより、デザイナーの相澤氏個人としては最近だけでもイタリアの[LARDINI(ラルディーニ)]のデザイナーを務めたり、ヤマト運輸のドライバーの制服のリニューアル、サッカーチームのコンサドーレ札幌のクリエイティブディレクター……などなど、追いきれないほどの業務をこなしている。(過去の仕事も含めて書き始めたらとても収まりきらない)
いつもはまさにジェットセッターとして世界中を飛び回っているため、なかなか落ち着いた取材は困難だが、「このコロナ渦中であれば、この新メディアの取材にも応えてくれるかもしれない」という淡い期待を胸に問い合わせたところ、快く展示会中の取材を承諾してくれた。
今回話を聞いたのは、もちろん新ラインの“Repose Wear”について。だが話は当然のごとく、変わりつつあるファッションの状況や、これからのファッションについての話に及ぶ潤沢な内容になった。
Photo 高木康行 Yasuyuki Takaki
Text 武井幸久 Yukihisa Takei(HIGHVISION)
多忙なデザイナーがコロナ渦中に発想したこと
― SNSでの突然のアナウンスでもあったわけですが、今回“Repose Wear” という新ラインを作ったのはどういう経緯だったのでしょうか。
相澤陽介(以下 相澤) : 1月にパリで[ホワイトマウンテニアリング]のコレクションが終わり、僕はイタリアの[LARDINI(ラルディーニ)]のデザインをやっているので、1月のショーが終わったタイミングですぐイタリアに戻ったんですが、その後しばらくしてイタリアがロックダウンしました。その状況を見て、6月のコレクションはたぶん無いだろうと思いました。で、改めて日本に戻ってみると、自粛期間中から含めていま僕が自分で毎日着る服って、ほぼ事務所と自宅の往復じゃないですか。
― そういう人はコロナ後に多いですね。
相澤 : それだけならファストファッションものでも問題ないという人も多いと思いますが、自分たちが着るものは、パターンにも凝っていて、ちゃんとしたものでありたい。自分も含めてスタッフや周りの人間がそういう考え方になったときに着れる服を作りたいというのが一番強かったですね。それをひとつのラインとしてやってみよう、しかも展示会も関係なく、まずは直営店とオンラインだけでやってみようと。
― そうお聞きするとダイレクトにコロナの影響で生まれた服、とも言えますね。でも以前から構想自体はあったのでしょうか。
相澤 : [ホワイトマウンテニアリング]の中で“Wardrobe(ワードローブ)”というラインを長年やっているのですが、そこでは日常的に着られるような、個性の強くない、良いシルエットの服を目指して作り続けています。多少のアップデートはありますが、ほとんどラインナップや形は変えていません。僕自身ずっとあのラインを着ていて、そのシャツは自分のラックには50枚くらいあるんです(笑)。
― すごい(笑)。“Wardrobe”ラインも長く続けていらっしゃいますよね。
相澤 : “Wardrobe”は究極の日常着を作りたいと考えているんですけど、今回の“Repose Wear”は違うコンセプトを作らなきゃいけないと思ったので、シルエットも独立したものを作りたいと考えるようになりました。そこで過去に[ホワイトマウンテニアリング]で評判が良かったり、買っていただく方が多かったアイテムのシルエットをすべてキープして、ウエストをゴムにしたり。あとは僕がもともとパジャマ好きで寝る時は必ずパジャマなんですけど、その延長で日常に着れる服を作り直したいというのがあって、そういうデザインになっています。
― SOPH.の清永浩文さんが[GU(ジーユー)]で作った1MW(ワンマイルウェア)みたいなものですね。
相澤 : そうです。偶然ですけど。たぶんこのコロナで洋服にこだわらないようになってくる人は増えてくるだろうと思ったけど、“志がない服”を着るのは嫌だなという人は自分も含めて多いと思うんです。だから“Repose Wear”では、身幅やアームホール、スリットの長さとかは、いわゆるオーバーサイズではなく、袖丈や着丈もただ大きいだけじゃなくて、ちょうどいいバランスを見つけるようにしました。“ワードローブ”で10年以上やってきた自分の中での日常着をキープしつつ、今の考え方を入れたリラックスウェアとしての作り直しですよね。それもあって名前も「休息する」という意味合いの“Repose Wear”にしました。
“コレクションと定番の間を行き来していたい”
― “Wardrobe”ラインは定番として長く続いていますけど、デザイナーさんに話を聞くと、「あまり定番を作りたくない」という方もいるようです。定番=マンネリだったり、積極的にクリエイションし続けたいという側面もあると思いますが。
相澤 : あ、そうなんですね。僕はもう極論を言えば「究極の定番を作りたい」デザイナーで、自分も基本的に同じ形の洋服をベースに着ているんです。今回の“Repose Wear”で言えば、同じ形で4種類の生地があります。真夏でも着られる綿ローン、9月くらいはキュプラの入った光沢のあるもの、自分が今着ているのはリネン、それをさらに地厚にしたものとか。やっぱり「自分が着たいもの」という目線で物を作るのはすごく大事だと思っているんですが、一方でコレクションラインの方はある程度飛ばしてやってきたので、その両翼で洋服作りをしたいなというのは常にあります。確かにデザイナーでも分かれますよね、たとえば尾花(大輔)さんも究極の定番を作りたいタイプだと思いますが、尾花さんもコレクションではまた違うアプローチをしていたり。
― コレクションで言えば今回のコロナもありますが、ジョルジオ・アルマーニさんなどが中心になって、ファッションの流れを変えて行こうという動きも出ていますよね。今までのサイクルを変えようという提言も出されて、確かSNS上で相澤さんも同調されていました。あの提言から実際半年近く経って、現在はどういう心境ですか?
相澤 : それは今もかなり響いていると思います。僕なんかは年齢的なものも含めてファッション業界の中での帰属意識を持ってしまう世代だと思うんです。僕が最初に[COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)]から入ったこともあって、パリコレみたいなものを目指さなければいけないというマインドが強かったというか。でも、そこに自分たちがどういうリアリティを持っていたかというと、多少置いて行かれちゃっていたところもあって。サッカーで言うと海外リーグを目指す人もいる一方、中村憲剛とか遠藤保仁みたいに、日本国内で自分なりのスタイルを作っていく人もいて、どちらもアリですよね。僕自身もどっちがいいのか、という点についてまた原点に戻って考えているところはあります。
― コレクションに意味があればやるけど……。
相澤 : そうです。「コレクションのために作る」のは違うだろうということですね。
― 今回のコロナで在宅勤務が増えたなどの要素もありますけど、ファッションの感覚がもう少し実用性の部分に振れた人も多いと思います。
相澤 : 確実にそうなっていますね。いつもだったら当たり前に来年1月にショーをやる前提で考えますよね。だけどもし「やらない前提」で考えるなら、今度は自分が着るべきものを作りたくなってくるんです。だからこの状況で自分の発想の原点が逆になってきているんだなと感じています。
相澤陽介が考える、これからのファッション
― 先日インタビューで三原康裕(メゾン ミハラヤスヒロ)さんもおっしゃっていたんですが、ファッションの、セールをして売り切って、みたいな流れに疲れたと。相澤さんもそういう部分はありますか?
相澤 : 何をやっているのかよく分からなくなっているというのは、今どこのデザイナーにもあると思います。一番僕が思ったのは、例えば今(8月末)に秋冬物が立ち上がっていて、店頭では誰もまだ着ないフリースが売っていたりする。そのサイクルはもっとデザイナーの方で操作ができるんじゃないかというのはありますね。全部をコントロールするのは無理ですが、ひとつのラインでそうすることはできる。だから“Repose Wear”は今回展示会もやっていますけど、店頭には明日(8月29日)並ぶんです。
― これまでになかったスピード、それも皮肉にもコロナが産んだというか。
相澤 : 洋服のサイクルを見直してみようというのはやっぱりコロナのきっかけは大きいと思います。もちろんファクトリーなどへの協力もお願いできたからこそ実現できたのですが。
― 相澤さんの場合、掴みきれないほどコラボレーションや招聘デザイナーとして活躍されていますが、そういう仕事とのバランスはどのようにしているのですか?
相澤 : ありがたいですよね。先日取材していただいた『朝日新聞』には「無冠の帝王」とか書かれちゃったんですけど(笑)、僕自身コンテストとかには全く興味がないんです。海外のブランドと何かやりたいというのは、もともとはなかった。でも[MONCLER(モンクレール)]をやった(MONCLER W ※2013 / 2014年AWシーズン)のが最初ですけど、もう得るものが多すぎて。こういう緊張感の中で仕事するのは大事だなと思いましたし、今もそういうオファーいただいたお仕事を突き詰めていると、今度は逆に”Repeose Wear“みたいなアイデアも生まれてくる。僕はそうやって「行き来」をすることが自分にとって良い刺激になっているんです。
― コロナもあって現在ファッションはかなり厳しい状況にあると言われていますが、相澤さんはこれからのファッションはどうなっていくと思われますか?
相澤 : うーん、どうなっていくんですかね……。でも、よりもっともっとパーソナルになっていくと思います。デザイナーの考えていることが、より重要になっていくんじゃないかと僕は考えていて。今はどの会社もブランドが進むべきものと、デザイナーが考えて提案するものがだんだん分離しているのかなという気がしています。もちろん最終的には一緒にならないといけないんですけど、ファッションの企業って、マーチャンダイジングを主体に考えるじゃないですか。
― いま大手アパレル企業が苦戦されているのもそこですよね。規模の問題もありますけど、マーケティングで洋服を作ろうとしていたところが苦戦している印象はあります。
相澤 : クリエイティブというのは見たことないものを作るのではなくて、最初にコンセプトを決めて実行することだと僕は思っているのですが、まずはマーケティング関係なくいいものを作りたいっていう部分がないとダメなのに、マーチャンダイジングの方に振り回されてしまう。で、何年もやっているとそれが「正解」になってしまう。どんなコンペティターがいて、どんな売り上げ目標が、という話になるのはもちろん大事だけど、デザイナーとしてのクオリティはそこじゃないと思うんですよ。なぜ今でも古いポルシェが人気あるかというと、「これがいいじゃないか!」という、当時のプロダクトデザイナーの考え方が強く反映されているからだと思うんです。だから今後はファッションにおいても、そういう志のあるデザイナーの洋服に人は集まってくるんじゃないかと思っています。《iG》
相澤陽介
ファッションデザイナー / 1977年生まれ。多摩美術大学 染織デザイン学科卒業。2006年に[White Mountaineering]をスタート。2013年[Moncler W]のデザイナーに、2014年にはBURTON THIRTEENのデザイナーに就任。2015年A/Wシーズンより、パリにてプレゼンテーション形式でコレクション発表を開始。2015年adidas Originals by White Mountaineeringを発表、2017年 HUNTING WORLDのクリエイティブディレクターに就任。2019年にはコンサドーレ札幌のクリエイティブディレクターに就任。同年クラシコイタリアを代表する[LARDINI(ラルディーニ)]とのコラボレーション、2020年にはヤマト運輸のセールスドライバーの制服リニューアル、[LEVI’S MADE & CRAFTED]と[White Mountaineering]とのコラボレーションなど、その活動は多岐にわたる。
[CONTACT]
White Mountaineering 代官山
東京都渋谷区猿楽町2-7 1F
TEL : 03-6416-5381
http://www.whitemountaineering.com/
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