[INTERVIEW]ワンランク上の日本のパジャマブランド NOWHAW (ノウハウ)とは?
着心地と機能性、そしてカルチャーまで追求した贅沢なパジャマはステイホームの味方。ディレクターの 十河幸太郎 にインタビュー。
パジャマを変え続けるブランド
あれは2014年のこと。当時は雑誌『EYESCREAM』で編集者をしていた編集人は、あるアーティストの個展会場で、ひとりの男性に話しかけられた。その男性は、最近自分がパジャマのブランドを始めたこと、そのパジャマがいかに作られ、どれだけ画期的なものなのかを熱弁し始めた。突然のパワープレゼンテーションに少し戸惑ったが、「今はアルバイトをしながらインディペンデントにやっています」という話の熱量とユニークな人柄にも惹かれ、その後も交流を持つようになった。
その人物こそ、いま日本の睡眠業界を静かに揺さぶるパジャマブランド、[NOWHAW(ノウハウ)]の十河幸太郎(とがわ こうたろう)だ。現在は数々のセレクトショップにもそのパジャマは並び、高級リゾートホテルのアメニティにも採用され、「ほぼ日刊イトイ新聞」、そして昨年と今年にはメンズファッションの世界ではともに強い影響力を持つスタイリスト・山本康一郎の[スタイリスト私物]や、[SOPH.]の清永浩文によるソロプロジェクト、[KIYONAGA&CO.]ともコラボレーションするなど、近年そのノイズはあがる一方だ。
長年知っていたとは言え、なぜそこまでの存在になったのかを知りたくなった編集人は、十河にコンタクトし、「いま[NOWHAW]に何が起こっているか?」を聞きに行った。
“ワンランク上のパジャマ”、[NOWHAW]が“パジャマブランドであり続ける”理由とは。
取材/文 武井幸久
Interview &Text Yukihisa Takei(HIGHVISION)
取材場所協力 : 都内某所“SOMEWHERE IN TOKYO”
http://somewhereintokyo.com
突き詰めるほどに感じたパジャマの可能性
― そもそも、なぜパジャマブランドを作ろうと思ったんですか?
十河幸太郎(以下 十河) : これだけ長年やっても、まだそこに対する明確な答えを持っていないんですよねえ(笑)。もともと自分でも寝る時には必ずパジャマに着替えていた、ということはあるんですけど、むしろ続けていくうちにどんどん「パジャマってすごい!」と思わされるようになったところがあって。
― それはどういうところですか。
十河 : いい服に袖を通す時の高揚感ってあるじゃないですか。スーツとかもそうですけど、“スイッチが入る”というか、そういう効能。パジャマにもそれがあるんです。
― パジャマだったら、「これから寝るぞ」とか、リラックスするというスイッチ。
十河 : そうです。そうやって着て体感できるものもあるんですけど、あとはプレゼントにものすごく喜ばれるんです。服って、人から貰っても好みじゃないものはなかなか着れないじゃないですか。その点、パジャマというのは着心地、寝心地が良ければ特に人の目に触れるものではないので。そしてその先に「眠る」という行為の大切さもあって、パジャマってすごく突き詰め甲斐のあるものなんだなと気付かされたところがあります。
↓ NOWHAW 2021SSシーズンルックより
←
→
“パジャマだからできる”アート全開のコラボレーション
― いま「パジャマは人の目に触れない」という話もありましたが、その一方でアーティストと組んだコラボレーションも初期から継続的にやっていますよね。
十河 : ブランド始めた頃からアートとは一緒にやりたいと思ったんです。これまでも、BAKIBAKIさん、加賀美健さん、今井俊介さん、平山昌尚(HIMA)さん、書道家 万美さん、Yuki MIKAMIさんなどとご一緒していますが、どれも僕らがファンとしてその作品が好きな方々で、まだまだご一緒したいアーティストはいっぱいいます。
― それって、「着て見せたい」という発想とはまた違うのですか?
十河 : 自分が好きなものを外着にするって少し抵抗ありませんか? 着ていると「あ、それ好きなんだ」というコミュニケーションツールにはなりますけど、「好きだけど、アピールしたいわけじゃない」というものもありますよね。例えばファッションブランドとアートがコラボレーションする時も、“アート全開”というより、「ファッションとして消化したデザイン」になっているものが多いですけど、パジャマの場合は外に出ない分、そのテキスタイルを“アート全開”にできるんです。だからむしろその作品や作家のファンに喜んでもらえるものになるかなと思って作っています。
あくまでも眠るため、部屋着としてのパジャマの機能性を追求
― 最近それこそ、“ワンマイルウェア”みたいな服も多いですよね。でも[NOWHAW]はかなりファッション的なアプローチなのに、「ぜひ外着にも」みたいな言い方をしないですよね。
十河 : よくぞそこに気づいていただきました。そうなんです。外着にするかどうかは着た人が決めることであって、やっぱりパジャマブランドとしては、「自ら言っちゃいけないこと」のような気がしているんですよね。そういう売り方をしていただいているお店もあるし、そういう気持ちで買ってくださる方もいると思うのですが、僕らがいつも付け加えているのは、「外着に使っていただいて構いませんが、飽きたらいよいよパジャマとして使ってください。寝る時に着心地、寝心地がいいように作っていますので」とお伝えしています。
― いま[NOWHAW]のパジャマは、中心価格帯が2、3万円ですよね。通常のパジャマの価格帯から考えると、少し高いと感じる人も多いんじゃないですか。
十河 : 確かに安いものではないですよね。スーパーには上下3000円くらいで売っているものは多いですし、百貨店とかにあるアメリカの有名ブランドのパジャマでも1万円台。だから最初の頃はよく「パジャマなのに」という言われ方もされてしまったんですけど、僕らは必ず天然素材で作るという決まりがあって、国内の生地メーカーの生地を使い、パターンも凝りに凝って国内の工場で縫製してもらっているので、どうしてもその価格になってしまいます。結局外着の服を作ることと工程は一緒なんです。当然もっと大量に作れれば変わってくるんでしょうけど、いまは僕と妻のチューソンの二人の規模でなんとかやっていける価格帯に抑えています。アパレルの常識で言えば、いまはシャツにパンツをタダで付けて売っているみたいな値付けです(笑)。パジャマは上下がセットですからね。
― そういう点で、[NOWHAW]が普通のパジャマとは違うのは、どういうところですか?
十河 : 着心地、寝心地がいいのはパジャマとして当然のことなんですが、やっぱり日常生活における機能性ですね。これは僕がアパレルの販売員をやっていた経験から来るものなのですが、服を買うかどうか迷っているお客様に、「お似合いですよ〜」とか、「今日の服にバッチリ合ってますね!」とか言っても、あまり“押し”にはならないんです。だから「この部分はこうなっているので、こういう時に便利ですよ」とか、使うシーンを想定した機能性があることをお伝えするのが重要で。だから[NOWHAW]のパジャマには、使うシーンを考えた機能がてんこ盛りなんですよ。
― それは例えば?
十河 : 例えば袖や裾が折り返せるようになっているところです。起きて洗顔やら、食器を洗うときにまくった袖がずり落ちないようになっていたり、例えば雨の日にゴミ出しに外に出なくちゃいけない時に、裾が濡れないようにまくれたり。時には自転車にも乗っても裾が巻き込まれないとか。
― それは日常生活のシーンを考えるとかなり便利ですね。
十河 : 人にもよりますけど、寝相ってむちゃくちゃアクロバティックなんです。だからロッククライミングで使う[GRAMICCI(グラミチ)]のパンツみたいに、股の部分が大きく開くように設計していたりもします。あとは本が入るサイズのシャツのポケットとか、スマホを入れておいてもソファでどこかに行ってしまわないようにポケットを深めにしていたり。ちょっと外出する時のために、パンツにキーホルダーも付けられるベルトループを付けていたり。
― 本当にてんこ盛り!
十河 : いや、まだあるんですよ(笑)。ベッドですることと言えば「夜の営み」じゃないですか。行為が終わって脱ぎ散らかしたパジャマがすぐに見つかるように、ピスネームを蓄光素材にしています。終わった後に電気点けるとムードぶち壊しですからね。だから「僕らのパジャマはムードを壊しません!」と(笑)。あと、これは持っている人でもまだ気づいていない人もいると思うんですけど、シャツの襟の後ろにコンドームを入れておける小さいポケットもあるんです。
― そこまで考えられていたとは(笑)。
十河 : 機能ではありますけど、そういう遊びというか、ちょっと珍妙なことをやりたかったんでしょうね。あとはブランド立ち上げ当初から、“YES / NOまくら”も作っています。これも文字の部分を蓄光にしているんですよ(笑)。
厳しいモノ選びで知られるクリエイターたちとのコラボレーション
― コラボレーションが増えているのも、そういう遊びのセンスがフックになっているんですか? 例えば[スタイリスト私物]の山本康一郎さんとか、[KIYONAGA&CO.]の清永浩文さんは、遊びのセンスもあるけど、モノを見る目も非常に厳しい方ですよね。
十河 : これは本当にお恥ずかしい話で、このまま載ったら一体どうなっちゃうんだろうという話なんですけど、僕、最初は山本康一郎さんのことを全然分かっていなくて……。数年前にアーティストの加賀美健さんと一緒に、“うんこクッション”と“ちんこクッション”というのを作ったんです。「“ちんこクッション”の中わたはパンパンにしてください!」とか工場の方にリクエストしたりして(笑)。それを加賀美さんの「ストレンジストア」に置いてもらっていたのですが、加賀美さんが「あ、こないだついに“ちんこクッション”売れたよ」と教えてくれて。「えー、どんな人が買ったんですか?」と聞いたら「スタイリストの山本康一郎さんだよ」と。
― おお。
十河 : そこが僕のいけないところなんですけど、加賀美さんの「知ってて当然」という口調に合わせるように、知らないクセに「おお、すげー。やったー」とか言っちゃって。後日「1LDK」の三好良さんの紹介で、康一郎さんが[スタイリスト私物]でパジャマを作りたいというお話でお会いすることになるんですけど、お会いする前に当然調べたら、「大御所スタイリストさん」だと分かったんです。でも僕にとっては「あの“ちんこクッション”を買ってくれた人だ」という妙な親近感があって、打ち合わせの時も偉そうに、「パジャマとは、弱っている時に効果を発揮するものです」みたいな話までしちゃって、いま思うと本当に恥ずかしいんですよね。
― [スタイリスト私物]とコラボレーションというのは、インパクトがありましたね。
十河 : あのコラボレーションを境に[NOWHAW]を知ってくれた人も多いですね。康一郎さんは打ち合わせの時もやりたいこととかが実に明確で、本当に勉強になりました。
― [KIYONAGA &CO.]とのコラボレーションはどういう流れだったんですか?
十河 : これも偶然なんですけど、僕が好きなブルーハーブのライブに行った時に清永さんにお会いしたんです。ライブの帰りに紹介してくれたのは、以前「PARKING」でもお世話になった(クリエイティブディレクターの)源馬大輔さん。その後インスタのDMで清永さんとやりとりするようになって、「一緒にやろうよ」と声をかけていただいて。
― いい流れですね。十河さんの人柄もそういうものを呼び寄せているというか。
十河 : いやいや、本当にいつもご縁に恵まれてばかりで。でも康一郎さんも清永さんもそうですけど、一緒にお仕事すると学ばせていただくことが多いんですよね。そういう中で、「まだまだパジャマって良くなるんだ!」と気づかせてくれました。
― これから[NOWHAW]でやっていきたいことはありますか? あと最後に聞きたかったのですが、そもそも[NOWHAW]というブランド名はどこから来ているんですか?
十河 : 「ノウハウ」って一般的に、「何かを良くするための方法」という意味じゃないですか。だから着る人がどんどん良くなって欲しいという想いは込めていました。あと、これはゴリゴリの後付けですけど、「New Odd Wonder Holiday And World(あたらしく、思いがけない、驚きのある休日と世界)」の頭文字です(笑)。これを思いついた時は、妻のチューソンと手を叩いて喜びました。でも、本当に「パジャマであたらしく、思いがけない、驚きのある休日と世界」を提供できればと思っています。
Profile :
十河幸太郎(とがわ こうたろう)
1980年生まれ。北海道出身。アパレルの専門学校を経て、アパレルの販売員や数々のアルバイトを経て、2013年にパジャマブランドの[NOWHAW]をスタート。パートナーのチューソンと夫婦で活動中。https://www.nowhaw.com
Related articles
あわせて読みたい記事はこちらから!
Editorial
Editorial
Mail magazine
購読はこちらにアドレスを入力するだけ。
お得な情報や厳選した記事を中心に
程よい頻度でお届けします(月2回程度)