[INTERVIEW] “買う時より、着ているうちに思い入れが強くなる服であって欲しい” : CASE 松坂生麻
[Name.(ネーム)]のディレクターが生み出す新ブランド[:CASE(ケース)]。シンプル、機能的、そして秀逸なコピーワークがもたらすものとは。ディレクターの 松坂生麻 をインタビュー。
「息子も着る。父も着る。」
編集人のところにはブランドやPR会社から展示会のインビテーションが届く。先日馴染みのPR会社から見慣れないブランドの、そして少し気になるコピーが記されたインビテーションがメールに添付されて届いた。
このDMには「息子も着る。父も着る。」と言うヘッドコピーとともに、下にはこんなメッセージが添えられていた。
「良い服とはどんなものか?それは廃れないということ。長く着れるということ。30代の自分が着る服だけど、60代の父親にも着てほしい。10年後20代になる息子に着てほしい。そんなことをイメージしながら制作しました」
記されていたブランドの名前は[:CASE]。知らないブランドだったが、ここに書いてあることは『inGENERAL』のコンセプトにも極めて合致するので、現物を見てみたいと思った。急遽PR会社の担当にコンタクトし、2021年AWのサンプルを拝見した。どのアイテムもシンプルな中に個性があって、編集人は40代後半だが、インビテーションに「60代にも着て欲しい」と書いていたように、どのアイテムも何を気負うでもなく普通に着れそうだった。
会場でデザイナーの松坂生麻(まつざか せいま)さんと挨拶し、言葉を交わした。「シンプルな服」を提案する人にしては思ったよりも若いと感じた。会場で[:CASE]の服作りについて、そのコンセプトについて聞いていると、かなり共感できるポイントの多い話だったので、途中で言葉を遮り、「これ、取材で聞かせてもらえませんか?」とその場でオファーをした。後日時間をいただき、聞かせてもらったのがここから先のインタビューだ。
松坂さんの話は想像していた以上にロジカルで明快だった。それもあってそのプロダクトの数々が「思い付き」レベルで生まれたものではないことも話をするうちに伝わってきた。
またしても少々長いインタビューになってしまったが、ゆっくり読んでいただきたい。きっと「また注視していきたいブランドが一つ増えてしまった」と感じていただけると思う。
Text&Photo : 武井幸久(HIGHVISION)
Name.、そして: CASEへ
― 先日お会いした時に思ったのですが、お若いですよね。「スタンダード」を掲げる人は比較的40代以上に多い気がするんですが。何年のお生まれですか?
松坂生麻(以下 松坂) : 1988年生まれ(33歳)です。そうなんです。このトシでこれってどうなんだろうと(笑)。同世代のファッションの人はモードブランドとか、もっと今っぽい服装なんですけど。
― でも松坂さんはこれまで[Name.(ネーム)]もやっていましたよね。[Name.]はデザイン性もあって、若い世代から支持されている印象があります。
松坂 : [Name.]には11年います。服飾専門学校を卒業して販売員として入社したのですが、実は[Name.]の服をたくさん着たりしていたわけではないんです。その後は卸先の営業などもやっていたのですが、僕は[Name.]というブランドをどこか客観的に見ていた部分があって、「自分が着る服」というよりも「[Name.]を着る人はこういう感じの人。だからこういう提案にしましょう」みたいな考え方でずっとやってきたんです。
― 「社内にいるけど外部の人」みたいな感じですね。
松坂 : そうですね。かといって自分でブランドをやりたいとか、デザイナーになりたいとかも考えていなくて、社内でも言ったことないんですけど、今の社長から「むしろ生麻のそういう考え方で別のブランドをやってみたら? 見たい人多い気がするんだけど」って言ってくれて、考え始めたんです。
― 面白い流れですね。これまで[Name.]でやってきたことがストレスになって、「その反動で」みたいなわけでもなく。
松坂 : そうですね。[Name]とは真逆のことをやりたいとは思っていますけど、全くストレスとかではないです。2021年AWからは[Name.]のデザインもすることになったので、そっちはまた別の考え方でやっています。
― 頭のOSを切り替える感じですね。そして[Name.]と真逆なことをやろうとすると、シンプルになる。
松坂 : 僕も買い物が好きでこれまで沢山服を買ってきましたけど、「この服、もっとこうだったらいいのに」と思うことは結構あって、それが「引き算」にあたることが多かったんです。「ここにロゴなくていいのにな」とか、「ポケット普通でいいのにな」とか。逆に自分も服のデザインの勉強をしてきたわけではないので、「足していくデザイン」は得意じゃないですが。
“買う時の思い入れよりも、着ているうちに思い入れが強くなる服であって欲しい”
― ちなみに[:CASE]というブランド名はどこから来ているんですか? [Name.]にもどこか通じるところを感じるのですが、それは会社のDNA的な?
松坂 : 「.(ドット)」とか「:(コロン)」とか、言われてみると確かに会社の決まり事のように見えますね(笑)。全然その意図はなくて、本来文末に付ける記号のコロンを文頭付けたのは、「今までのスタンダードから発展して、新たにCASEから始まる」みたいな意味合いにしたかったからで、[:CASE]と出会うことで「普通の良さ」みたいなものに出会って欲しいという想いを込めています。
― その「普通の良さ」というのは、まさにこのメディアで伝えていきたいことでもあるんです。ちなみに最初の展示会(2021年SS)と、この間の展示会(2021A W)では、それぞれ何型くらい作ったんですか?
松坂 : 2021年SSで15型、2021年AWでそこに12型くらい加わった感じです。前のシーズンからの継続が多くて、今後もそういうやり方にしていきたいので、5シーズンくらいしたらかなり型数が増えているかも知れないですね。
― 通常ファッションは半年サイクルでコレクションが変わりますよね。あえて「継続アイテム」の発想になったのは何か理由があるんですか?
松坂 : 僕自身が1つの服を5年、10年って着るんです。知り合いには「今年もこれ着てるんだ?」とか言われますし、Tシャツとかも基本は“買い足し”。もともと僕にとって、服って「身を包む道具」のような、そういう立ち位置のものなんです。買った時にテンションが上がる服ってありますよね。でも[:CASE]が目指しているのはそうではなく、着ていて後からジワジワ来るものでありたいというか、「今年もこれ着てるなあ」という服であって欲しい。だから毎シーズン新しいものを出しても仕方なくて。むしろ「20XX年SSモデル」だと、すぐに「過去のもの」になってしまう気がして。だから買う時の思い入れよりも、着ているうちに思い入れが強くなる服であって欲しいんです。どこの時代でも残って着られるものでありたいというか。
― 共感します。やはりシーズンで生まれるものは、さっきの「道具」としての側面で見ると、検証されていないものも多いですよね。
松坂 : そういう意味でも僕らが[:CASE]でやろうとしているのは、いわゆる“ファッション”ではないのかなと思っています。ファッションにならないようにしたいわけでもないですけど、見た人にむしろ「この人たちはファッションでやっているわけじゃなさそう」と思ってもらいたいというか。ウェブサイトもそういう見せ方にしているんですけど。
無印良品に惹かれて
― 展示会のインビテーションもそうですが、ウェブサイトの商品説明もユニークですよね。このコピーも全部松坂さんが?
松坂 : そうです。僕が考えて、チームに確認をして。言葉で説明しないのがファッション、という考え方もあると思うんですけど、例えば僕らが日常で使う家電とかは逆に文章がないと成り立たないものですよね。僕は服にもそういうものがあっていいんじゃないかなと思って。着て理解してもらうよりも、まずは言葉で。だからコピーもカッコ良く英語にするんじゃなくて日本語です。ガジェットとか家電のような見え方をするカッコいい服、という感じですよね。僕自身ガジェットや家電のホームページのデザインを見てテンション上がったりするタイプなんです。
― 今の時代はウェブがファーストコンタクトになることは多いですしね。どういうセンスなのかも出ますし。
松坂 : だから大塚製薬とかもすごいなとか思っちゃいますね。昔からあんなことやってるのか…….って。みんなが知っているような企業って、実は半端ないことやっていると思います。
― そういう意味で松坂さんが気にしている企業とかブランドというと何になりますか?
松坂 : 素敵だなと思うし、自分もヘビーユーザーなのは[無印良品]ですね。店頭のPOPもモノもすごくファッショナブルだなと思います。何も欲しいものがない時でも行っちゃうし、[無印良品]が入っているテナントはよく見えたり(笑)。
― 分かります。自分も[無印良品]はよく買います。でもなぜか[無印良品]で買った服って、愛着湧かない感じしませんか? 自分だけなのかも知れないですが、その理由が分からなくて。
松坂 : どうなんでしょう(笑)。それは価格なんですかね。[:CASE]も相当無理をすれば[無印良品]の価格にできないことはないんでしょうけど、“消耗品”になって欲しいわけじゃないんですよね。むしろ5年後くらいにリサイクル古着屋にあったりして欲しいなと。
― 昔あるデザイナーさんが、「タンスの手前に来る服って、価格じゃない。高いから手前に来るわけでもない」と言っていたのですが、愛着と価格はまた別の話なんでしょうね。
松坂 : 僕もバイヤーさんに「1年365日の中で1番着てくれる服になって欲しい」と説明するんですけど、「どういうこと?」っていう反応の方もいます。だから[:CASE]の真価は数年先じゃないと伝わらないかも知れないんですよね。そういう点ではまだまだ時間が必要で、根強くやっていかなければいけないなと思います。
― ちなみに初回、2回目と展示会をやって、バイヤーさんの反応に変化はありましたか?
松坂 : 2回目の展示会には初回に来てくれた方にしか声をかけていないんです。まだあまり広げたくなくて。
― オンラインにチカラを入れる感じですか。
松坂 : もちろんオンラインもやっていくんですけど、むしろ僕は卸先の店舗を非常に大事に考えていて、「広げたくない」というのは目が届かなくなったり、お店とのコミュニケーションが薄くなってしまうからなんです。やっぱりお店で伝えてくれる方がいてこそのブランドだと思っているので。オンラインの時代なので「店って意味あるの?」とか言う人もいますけど、僕はめちゃくちゃ意味があると思っています。
とある“ケース”の時に着る服として
― 定番になるかどうかというのは結果論ではあるのですが、そこは差し置いて、[:CASE]として今後根付かせていきたいプロダクトというと、どれになりますか?
松坂 : セットアップに関しては同じ生地を使いながら沢山バリエーションを増やしていこうと考えています。あとはシャツですね。シャツのサイズ感は誰が着ても大きく見えるようにしているのですが、「だらしなく見せない」というのをテーマにしています。「だらしなく見せないのは何がポイントなんだろう」とずっと考えて、それは首周りだと。だから襟の部分は7、8回やり直しました。同じ形でスタンドカラーのシャツも作ったのですが、ただ襟を取っただけだと全体の印象も違ったので、パターンも引き直したりしています。
― そういうシンプルな中にあるものって、伝えるのが難しいですよね。ぱっと見じゃ分からないし。
松坂 : そうですね。だからバイヤーさんにも「販売する方にいっぱい喋ってもらわないと、お客さんに気に留めてもらえないブランドですよ(笑)」と伝えています。でも一度着てくれたら、その人が他の人に伝えてくれるような服じゃないかなと思っています。それもあって[:CASE]のウェブサイトやタグには服の機能とか、「こういう時に着る服」みたいなことを全部書いているんです。
― ウェブに掲載されている「よく動く日にこそ、このシャツを。」とかですね。
松坂 : もちろん自分もお洒落のために服を着てはいるんですけど、それがどんどん変わってきているんです。異性の目だったり、流行に対して敏感であることだったり、ファッションが自分のアイデンティティだった時代もあります。でも20代後半、30代前半になってくるうと、「これからあの人と会うからこれを着よう」とか、会う相手のことを考えて服を選ぶようになってきたんです。「どこどこに行くからこれを着よう」という、“ケース”ですよね。それがブランド名にも繋がるんですけど。
― ああ、なるほど。それで[: CASE]なんですね。繋がってきました。先ほど[無印良品]が好きだとおっしゃっていたのも考えると、“シチュエーションを想定した[無印良品]”みたいなことかも知れないですね。さっき自分が「[無印良品]の服に愛着が持てない」と話したのは、対象にする人の単位が大きすぎるデザインだからかも知れないなと思うんですね。そういう意味では[: CASE]はシチュエーションという枠もあるし、デザインの方向性も違いますね。
松坂 : そうかも知れないですね。だから着るシチュエーションを連想してもらうように、言葉を重視しています。あえて日本語にしているのもそういうことで、例えば今回僕は作りながら自分の父親にも着て欲しいと思ったから、「親子2世代の服を作りました」とストレートに書いちゃった方が伝わると思ったんです。
― “Father To Son”みたいなことじゃなくて、ですね。
松坂 : カッコつけていないので、「そんなのファッションじゃないでしょ」と言う人がいてもいいいですし、むしろ僕らもファッション以外でも色々やっていたいことはあって、今後は展開を広げていきたいんです。展示会でも食器を展示(※2021年AWには松坂さんがデザイン監修した陶器も[:CASE]から発売される)したのはそういう流れで。
― じゃあ今後[: CASE]はもっと広がるわけですね。例えば……、クルマのシートカバーだったりとか(笑)。
松坂 : そういうことです。「こういう時にこう言うモノがあったらいいんじゃないですか?」というものは結構やっていきたいと思っています。「じゃあ何をやってる人たちなの?」と思ってもらうくらいでもよくて、服が入り口にあって、「この人たちの作るモノだったら、コレも買ってみようかな」と思ってもらえるような商品構成にしていきたいですね。
(Profile)
松坂生麻 Seima Matsuzaka
1988年生まれ。名古屋の服飾専門学校を卒業後、上京。「当時遊んでもらっていた先輩」だった、ファッションブランド[Name.]に販売員として入社。卸先の営業や、マーケティングなどを担当する。2021年AWからは[Name.]のメンズ統合ディレクターにも就任し、デザインを担当。2021年SSに同社より[:CASE]を立ち上げ、2つのブランドのデザインを並行して行う予定になっている。
[CONTACT]
:CASE(ケース)
https://www.c-a-s-e.jp
CASE : 2021SS COLLECTION
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