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Fashion

2020.08.11

[inGENERAL interview]メゾンミハラヤスヒロ My Foot Products 三原康裕インタビュー

「下町の団子屋さんのようなお店にしたい」。週2日だけオープンするスニーカーショップ「My Foot Products(マイ フット プロダクツ)」について三原康裕氏に話を聞いた

[inGENERAL interview]メゾンミハラヤスヒロ の ” My Foot Products ” 三原康裕インタビュー

Content

原宿に生まれた奇妙なスニーカーショップ

シリアスな発想から生まれたコンセプト

この店だけで売る商品をマイペースに作り続ける

“長く楽しみたいなら、バズってはいけない”

原宿に生まれた奇妙なスニーカーショップ


Maison MIHARA YASUHIRO(メゾン ミハラヤスヒロ )]が2020年の6月、原宿に「My Foot Products(マイ フット プロダクツ)」という、同ブランドのスニーカーメインのショップをオープンした。近年[メゾン ミハラヤスヒロ]のキーアイテムのひとつになっている少しボリューム感のあるスニーカーは、シューズデザイナーとしてデビューし、長年シューズを手がけてきたデザイナー・三原康裕氏の遊び心が形になったようなプロダクトだ。

マイ・フット・プロダクツ」の店舗自体はそこまで広くはないが、店内に並んでいるのはごく少量のスニーカーと、このショップ限定のアパレルのみなので、まるでギャラリーのような贅沢な空間になっている。入り口と店舗奥のネオンサイン、そしてディスプレイ什器も木製のプレハブのような簡素でシンプルなものが並んでおり、そこには虚飾を配した美意識が感じられる。

このお店の営業形態は少し変わっている。現在のところオープンするのは毎週火曜日と土曜日のみ。「靴ひも結べな君」というユニークでアイロニックなキャラクターの存在も含めて、入り口の優しさとは裏腹のコンセプチュアルさも併せ持っている。

先日、このお店のオープンについて、デザイナーの三原康裕氏本人に取材した興味深いインタビュー動画が『WWD』に上がった。この動画を見たときに三原氏が話していたことが、この時代におけるファッションのあり方のひとつの答えのような気がして、さらに話を聞いてみたくなった編集人は三原氏に取材を申し入れた。

まだこのサイトが立ち上がる前の唐突なオファーだったにもかかわらず、取材を快諾してくれた三原康裕氏に深い感謝を申し上げつつ、ぜひここからのインタビューを楽しんでいただきたい。2時間以上の貴重なインタビューになったのでテキスト自体も少し長めだが、これからのファッションのありかたを考える上でも大変興味深いものになったので、ぜひゆっくりと読んでいただきたい。

Photo 高木康行 Yasuyuki Takaki
Text 武井幸久 Yukihisa Takei(HIGHVISION)

シリアスな発想から生まれたコンセプト

 

― このお店の発想から具現化までの流れはどのような感じだったのですか?

三原康裕(以下 三原) : コロナの前からずっと感じてきたことですけど、世の中が疲れ切っちゃっているような気がしたんですね。なんか急かされているというか、「しゃかりき」じゃないですか、今って。SNSやインターネット、情報テクノロジーが進歩していて、僕らがそれに振り回されている。「グローバリズム」という言葉も20年くらい前には希望があったけど、グローバルになることが果たしていいことなのかとか、情報の速さに人が追いついていないんじゃないかとか、実は割とそういうシリアスな考えからこのお店の構想は来ていて。

このお店のある原宿エリアは、昔は“裏原”とか竹の子族とか、若者を中心とした文化や空気から生まれることがありましたよね。もちろん海外からの影響や模倣した部分もあったけど、ローカル独特の系統を作ってきたと思うんです。最初の頃の藤原ヒロシさんやNIGO®さんとかは、今で言うところのインフルエンサーだったかもしれないけど、彼らは情報というよりも、もっと感覚とか空気感でファッションを捉えていたと思うんですね。「こういうの格好いいんじゃない?」とか、「こういうのが本物だよね」とか、そういう会話からモノもカルチャーも生まれていた。それがいまや世界まで拡大したんですけど。

― たしかに今はどうしても「情報優先」になっていますね。

三原 : たとえば昔は海外のミュージシャンの1枚の写真から、もっと知りたいと思って追いかけたりしましたよね。でも今は検索するとすぐに知れるようになったから、イマジネーションはなくなったし、感覚的にも「断定」で見るようになりました。その分、曖昧ではなくなった。でも人間って本来は結構曖昧じゃないですか。きれいにカテゴライズされたくもないし、できない。でも今の情報優先の世の中は、そういう僕らの“曖昧な加減”を奪っているようにしか見えないんで。

― 便利になった分、ですね。

三原 : iPhoneが出てくる前までは、僕も「どうやって世界に情報を発信しようか」とか、「どうやったら自分のブランドをパリで見せていこうか」とかを考えていたんですけど、今はSNSでポストすれば一瞬で世界に情報を知らせることができる時代ですよね。だからある時から、「それが何なんだ?」と思うようになっちゃった。街の感覚とか、誰かと会った感覚の方が本物なのに、それがどこかねじ曲がって、SNSの方が本質になっちゃっている部分がある。これは人間の本質を破綻させるな、と。それによって感性も失いつつある気がしたので、自分の中でちょっと距離を置けるようにしたくなったんです。「SNSを使わない」とかそういうことじゃなく。

この店だけで売る商品をマイペースに作り続ける

『WWD』の動画インタビューの中で、浅草の「言問団子(ことといだんご)」のお店のお話をされていましたよね。「ずっと同じものを売り続けていることに憧れる」と。実は個人的にそこにも共感したんです。

三原 : あの「言問団子」の例だけど、別にあの人たちはアメリカに売りたくて団子を作っているわけじゃないし、昔からずっと作り続けているわけですよね。誰かに認められたい、とかでもなく。それと同じように、僕もだんだんグローバルに評価されたくてとか、有名になりたくてとか思わなくなっちゃった。

― そういうモードになったのはいつ頃からですか?

三原 : 実は一昨年頃から、ちょっとずつ思うようになって。コレクションってメンズ / レディース合わせると年4回あるんですけど、それがある種、仕事だけど義務みたいになっているなと感じてはいて。だから自分たちで発信するタイミングで何かをやる可能性とか、いろんなことを考えるようになりました。作品を作ってショーをやって、展示会やってオーダーを取って生産して店頭に並べるというサイクルに疲れちゃって。だから「マイ・フット・プロダクツ」の商品は、ほとんど卸しもしないし、オーダーを取って生産するのではなくて、この店のためだけにやっています。自分たちのサイクルで。

― 「作りたくなった時ができた時」みたいなことですね。

三原 : そう。パン屋さんみたい。でももうそっちの方がいいのかなって。「オーダーがいっぱい入った」とか「オーダーが入らなくてボツった」とか、そういうことがクリエーションする頭を濁らせる。だからここでは自分の商品をもう少し押し軽い気持ちで売っていきたいと思ったんです。

ー その一方で[メゾン ミハラヤスヒロ]は、今のファッションの流れの中に存在もしていますよね。

三原 : そうですね。だからこっち(マイ フット プロダクツ)は僕の中でも息抜き的な感じなんです。「靴ひも結べな君」というもうひとりの人格を生み出して、そちらで言いたいことを言っているような感じですよね。実際彼はアイロニックなことを言うんですよ。「もっと有名になりたい」とか、「『靴ひも結べなランド』を作りたい」とか(笑)。ある意味現代の風刺的なキャラクターです。僕は若い頃にいろいろこだわりがあって、昔は「革靴で歴史に名前を残したい」とか思っていたけど、最近はそういうのもなくなってきて、この間うちのスタッフとも「このままスニーカーで歴史に名前が残っちゃったらどうしようね」って話していたんですけど(笑)。

“長く楽しみたいなら、バズってはいけない”

― 三原さんの作るスニーカーは独特ですよね。

三原 : 僕のスニーカーはちょっとアイロニックな立ち位置でやっているんです。スポーツシューズの領域では、テクノロジーも含めてもう[ナイキ]とか[アディダス]には勝てないじゃないですか。そうやって彼らが「スニーカー戦争」を引き起こし、その横に僕らが存在するみたいなことに疲れちゃった。だからテクノロジーに反比例するように、手で粘土の型を取ってスニーカーを作ろうと思ったのは、彼らに対するアンチテーゼでもあったんです。

― スニーカーも次から次へと新しいモデルが出てきますし、コラボレーションも正直多すぎる気がします。

三原 : 今のコラボレーション文化って「マーケティング」になってしまいましたよね。コラボレーションってもっと化学反応的であって、Aという大きな会社とBという小さな会社がやることで、まったく新しいものが生み出されたりすることに期待していた時代だったのが、今はそれが“価値”になってしまった。同時にそれを煽るような情報も過多にもなっているわけですけど、やっぱりバズってしまったら、その「戦争」に連れて行かれちゃう気がして。結局ファッションって、流行った後には必ず落ちるじゃないですか。だから長く楽しみたいんだったらバズっちゃいけないよなと。

― 最近もすごい金額のものや、「これ履くのかな」っていうデザインのスニーカーが多いですが、でも実際街でおしゃれな人って、そういうのは履いていないですね。

三原 : そうですね。割とシンプルな靴を履いています。やっぱり何でもないものを格好良く着れるのが一番格好いいなと思います。こないだぼーっとテレビを見ていたら、豊川悦司常盤貴子の昔のドラマがやってて。

― 『愛していると言ってくれ』ですね。

三原 : そうそう。で、あのドラマの豊川悦司がやっぱ格好いいんですよ。白のカットソーにチノパン、サンダルだけ履いているんだけど、それだけで格好いい。それを見てたらジェームス・ディーンのことを思い出した。昔はジェームス・ディーンが白いT シャツにジーンズ履いて、腕を少しまくっているあの感じが格好良かったし、彼も質素だったなと。だから「質素で格好いい」って一番最強なんだなと思い出しました。

― 着こなしとかサイズ感も絶妙なんでしょうね。顔のこと言い始めたら仕方ないですけど(笑)

三原 : 仕方ない、仕方ない(笑)。やっぱりバランスなんでしょうね。

「言問団子」のようなお店にしていきたい

― 「普通のもの」を格好よく着こなせるのはいいですよね。それがこのメディアのテーマのひとつでもあるんですが。

三原 : うん。いま「普通」が尊いものになりつつあるなと思ってて。いま世の中に溢れている情報というのは“普通じゃない”ですよね。だから「普通って何?」っていう話になった時は、「本物」っていう風に置き換えられると思います、僕にとっては。“普通じゃない”というのはある意味、人を驚かせるための仕掛けもあったりするわけで。マーケティング的にどういうビジュアルが人に共感されやすいとか、インスタグラムに受けるようにしたりとか、そこまで姑息になる必要はないんじゃないかなと思いますね。

― たとえば「限定モノ」にも同じことが言えますよね。

三原 : あれは最初の意味からすると変わっちゃった気がしますね。最初は確かに日本の原宿あたりのムーブメントで、「同じのを履いている人が多かったら嫌じゃん」っていうくらいのものだったのが、いつの間にか限定に価値があることになっちゃった。

― そうですね。やっぱり良いものは継続して欲しいなと思っている人は多いと思います。

三原 : だからこのお店ではセールはしないんです。在庫になっていてもいいし、必要に応じて追加もします。本当に「言問団子」みたいになりたいんですよ。新しいものだけじゃなくて、古いものも継続をしようと考えています。セールで売り切って次を作るみたいなことを続けていくと、心が疲れちゃうんです。あれだけ頑張って作ったのに、セールで切り取られて、「はい次」ってなるのはもういいやって。だから売り切れた品番を追加していけばいいじゃんって思っています。だって、昔の街の靴屋さんってそうだったでしょ?《iG》

〔CONTACT〕
My Foot Products (マイ フット プロダクツ)
住所 : 東京都渋谷区神宮前6-14-10 ASM 岩松ビル1F
TEL : 03-6712-5617
営業日 : 火曜日 & 土曜日
営業時間 : 12:00 – 20:00
URL : https://miharayasuhiro.jp/
e-mail: my_foot_products@miharayasuhiro.com

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シリアスな発想から生まれたコンセプト

この店だけで売る商品をマイペースに作り続ける

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