[inGENERAL interview]
soe における“デザインの継承”
― ディレクター 伊藤壮一郎 & デザイナー 髙木佑基 ―
デザイナーはどのようにそのブランドの哲学を次の世代に継承するのか。東京ブランドの[soe(ソーイ)]の場合、そして定番継続ラインの“soe BOOKS”についてインタビュー。
soeの20年
2001年にスタートした息の長い東京ブランドのひとつ[soe]。メンズファッションにおいて東京が持つ洗練を表現しながらも、少し捻(ひね)くれた感性も同居しているこのブランドのウェアは、賑々しい主役として語られることは多くないものの、常に確固たる存在感を放っているブランドでもある。
ブランドの立ち上げからデザイナーを務めてきた伊藤壮一郎(いとう そういちろう)氏は、2018-19年の秋冬コレクションで突如「デザイナー退任」を宣言してディレクターとなり、長年二人三脚でデザインを務めてきた同社の髙木佑基(たかぎ ゆうき)氏にデザイナーとしての立場を譲った。
ブランドとして堅調な状態の中でのデザイナー交代は周囲を驚かせたが、そこにはどんな経緯と狙いがあったのか。奇しくもブランド誕生から20年の節目のタイミングで、伊藤氏と髙木氏に話を聞くことができた。
そして[soe]の中でも定番継続のラインとなっている[soe BOOKS]にも息づく“[soe]らしさ”とは。
Photo : 細川隆弘 Takahiro Hosokawa
Text : 武井幸久 Yukihisa Takei(HIGHVISION)
二人のデザイナー、それぞれの「始まり」
― 伊藤さんが2001年に[soe]を手がけたときの初期衝動ってどんなものだったのですか?
伊藤 : 学生時代にイギリスに留学していたんですけど、留学というかほとんど遊んでて。でも塞ぎ込んだ時期があって帰国したんですね。帰ってきてやることもない引きこもり状態。そういう中で、親の繋がりで山本耀司さん(Yohji Yamamoto デザイナー)に会いに行ったり、耀司さんのまわりの方々に会う機会があって、その中で「壮一郎に洋服を作らせてみたら面白いかも」みたいな話しをしてくれて、服作りで社会復帰という始まりです(笑)。
― そうやってブランド始める人いないですよ(笑)
伊藤 :それで絵描きの友達とTシャツ作ったり、「バックドロップ」とか「プロペラ」なんかの当時の東京のお店でかっこいい人ってみんなブラックデニム穿いていて僕もすごく好きだったから、シンプルなブラックデニムをオリジナルで作ったりして。そんな軽いノリの始まりなのに、結構買い付けてくれるお店があったんです。
― でも「こういう服を作ろう」という意思はあったわけですよね。
伊藤 : でも当時はまだ“ファッションへの強烈な想い”みたいなものもなかったし、逆にそのくらいの気持ちの時の方が上手く行ってました。だんだん調子に乗って、「やってやろう」って思ったらダメになったりして(笑)。だって、つい最近まで学生だった右も左も分からないただの若いヤツが突然「デザイナー」ですから、色々勘違いも始まるわけですよ。一時期は完全に見失ってましたね。そこから立て直すのには非常に苦労したんですけど、それでもなぜか「面白いことはやりたい」という気持ちだけはいつもありました。でも本当に紆余曲折です。
― 髙木さんはどうして[soe]に入ろうと思ったんですか。
髙木 : 僕が入ったのは2008年ですが、きっかけは通っていた専門学校のテーラードの先生の紹介でした。最初はインターンで、社員になって、そのまま現在まで居るという感じです(笑)。専門学校の卒業制作でショーをやったのですが、審査員の人から「キミの服は悪い意味でカッコ良すぎる。ユーモアが足りない」と言われたことがあってずっとそれが頭に残っていたんですが、[soe]に入った時にすごくそれを痛感しましたね。
― それは[soe]の服が「カッコ良すぎない」ということですか?
髙木 : そうですね。ユーモアを感じたというか。学生時代は[RAF SIMONS(ラフシモンズ)]とか[HELMUT LANG(ヘルムート・ラング)]とか、いわゆるモードを追いかけてきたのですが、真逆とは言わないものの、そこにはないものを[soe]の服に感じたんです。色使いや素材選びにしても自分にはない発想がありましたし、僕には無かったユーモアな部分がこのブランドにはあると思いました。
伊藤 : 普段そんな話はしないから、改めて言われると照れ臭いね。一方で僕は、髙木が入った当初から自分が考えているデザインの方向みたいなものを見せて、髙木の意見を聞くようになったんですよね。その中でお互いが“落ち着くところ”を世間に出していたところがあって、それがずっと続いています。なぜか最初から髙木の感覚を信頼していたんですよ。
― じゃあそれ以降はまさに二人三脚というか。
伊藤 : 本当にそんな感じです。うちの会社も小さいながらいろんな人が出入りしましたけど、髙木は長いし、そうやって[soe]の服は作ってきましたね。
居酒屋でデザイナーのバトンタッチ
― そういう信頼関係があるからこそ、2018年にデザイナーの立場を髙木さんに譲ることができたという感じなんですね。直接のきっかけは何かあったのですか?
伊藤 : 一時期[soe]のレディースラインがあって、そのデザインを僕がやっていたんですが、もうそのシーズンは髙木にメンズの方を任せることができていたんです。あと同時期の2017年に[soe]が「東京ファッションアワード2018」を受賞させて貰いましたが、その時に「なんか自分が出ていくのもなぁ」という照れ臭い気持ちもあったし、この先10年自分がデザイナーとしてやっていく姿が描けなかったんですよね。それよりもこれからのことも考えて、髙木が前に出て行った方がいいというか。僕自身、デザインだけというよりもブランドの見え方とか、そういう方に興味が移ってきたのもあって、髙木がより洋服に近いデザイナー、僕は少し引いて全体を見るポジションということにしたんです。
― 髙木さんはそのバトンを引き受けてどう思いましたか?
髙木 : もちろん肩書きとか責任は変わることにはなるんですけど、そこで意気込むというよりは、今までとやっていることと大きく変わらないなと思いましたね。
伊藤 : 髙木はいつもこんな感じでクールなんですよ(笑)。そこも僕と良い意味タイプが違う。でも今までは僕がデザインしたものを髙木に見てもらって最終ジャッジをしていたのが、反対になっただけなんですよね。今は髙木がデザインしたものを僕がジャッジする。これまでも部分的にそういうことはやってきたので、お互い違和感はないんです。
― でも、「そういう日」はあったんですよね。「お前に任せるぞ」みたいな日が。
髙木 : その頃は毎日同じような話をしていたので、「その日」みたいな感じではないですが、確か事務所の近所の栃木屋(中目黒の焼き鳥居酒屋)でそういう話になったような気がしますね。
― 居酒屋でデザイナー交代というのも珍しいですよ(笑)。
“被ってもイヤじゃないものが定番になる”
― そういう[soe]らしさというものは、お二人の間で感覚的に共有できていると思いますが、その中でも定番継続の[soe BOOKS(ソーイ ブックス)]のラインは、もっとも[soe]らしさが詰まっている感じと言えますか。
伊藤 : [soe]として毎シーズン新しいデザインは追求しているんですが、その中で多少形は変えながらも継続してきたものがあるんですね。それがジャケットとかセットアップ、シャツ、あとは裾のラウンドが特徴のTシャツだったりするんですが、それらを[soe BOOKS]という定番ラインにしました。セットアップはもう7シーズンくらい続いていますね。
伊藤 : たとえばセットアップは、僕自身が好きなスタイルです。昔から少しテロッとしたジャケットを少しテキトーに見えるように着るのが好きで、自分のブランドの中でもそれを続けてきたものですけど、こういう感じが最近若い世代の人たちのトレンドにもなったところがあるかもしれないですね。Tシャツも、僕自身はアメリカンな服は好きですが、[soe]の中でどう表現するかを考えて形になったものです。結構色違いで買ってくれる方も多いみたいです。
― やっぱり残ってきたものは強いですね。
髙木 : そうですね。特に男性って定番モノが好きじゃないですか。でも最初から意識的に定番を作るってハードルも高いんですよね。
伊藤 : やっぱり「人と被っても嫌じゃない」ものが定番になるんじゃないですかね。むしろそういうモノじゃないと定番にはなれない。でも常に新しい洋服を発表する立場としては複雑なんですけどね。時間も頭も使って作った新しいデザインより、既存のものが売れ続けるのって、ちょっと悔しいところもあるんですよ。もちろん売れることって嬉しいものですけどね。
― デザイナーさんは二通りに分かれますよね。あまり継続品にフォーカスして欲しくないタイプと、継続モデルになることを好むタイプと。後者で言えば伊藤さんも付き合いの長い南(貴之)さんみたいな方ですよね。あの方は[Graphpaper(グラフペーパー)]でも続々と継続品番を増やしています。
伊藤 : 彼は昔から同じことを言ってましたからね。「壮一郎、[A.P.C.]みたいなことをやろうよ。普通のセーターとか作ろうよ」って。そういうことを形にしたんだと思います。だから単純に尊敬しています。自分には出来ないことだし、狙ってそうなっているわけだから。僕らの場合は自然に増えていっただけです。狙うと外すんで(笑)。
― そこは似ているけど違う部分ですね。
伊藤 : モードとかも消費するデザインと、定番のようなものを作るデザイナーって、同じ業界だけど水と油みたいに違うかもしれないですね。僕自身はどっちも好きですけど。
― 最後になりますが、伊藤さんと髙木さんが考える「[soe]らしさとは」どういうものでしょうか。
髙木 : 言葉にするのは難しいですけど、二人とも照れ屋なので、どこか引き算をするデザインという共通点はあるかもしれないですね。よく[soe]は東京らしいブランドとして言われることもあるのですが、そういう照れて引き算をしてしまうところが[soe]らしさかもしれません。
伊藤 : 僕は東京生まれなんですけど、ずっとYMO(Yellow Magic Orchestra)に憧れて育ってきたところがあって。細野(晴臣)さんとかの、派手さはないんだけど、ユーモアがあるところとか。もしかしたらそれが僕のユーモアの原型かもしれないですね。真正面にやるというより、ちょっと斜めから見て服を作るのが[soe]なのかもしれないです。
(Profile)
伊藤壮一郎 Soichiro Ito
1977年、東京生まれ。高校卒業後、渡英しロンドンに留学。 帰国後に青山学院で経済史を学ぶ傍ら独自で服作りを始める。 2001-2002年秋冬よりsoe(ソーイ)をスタート。 2004-2005年秋冬より東京コレクションデビュー。 2013年に「M.I.U.」をオープン。2015-2016 秋冬よりパリ メンズコレクションに出展。2018-2019年秋冬コレクションを最後にsoeデザイナーを退任し、ディレクターに就任。
髙木佑基 Yuki Takagi
1985年、埼玉生まれ。 2008年、専門学校を卒業後、ジョンソーイ入社。 企画生産として、伊藤のアシスタントを務め、2019年より、メンズ部門デザイナーに就任。
[CONTACT]
M.I.U.
東京都目黒区青葉台3-18-10 1F
TEL : 03-5457-2011
http://www.soe-tokyo.com
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