[INTERVIEW]アーバンアウトドアスタイルの伝道師、 BAMBOO SHOOTS ( バンブーシュート ) 甲斐一彦 の頭の中
メイドイン・アウトドア、中目黒育ち。中目黒で22年を数える名セレクトショップのディレクターが語るアウトドアスタイルの変遷
“都会の中の小さな自然”、目黒川沿いの名店
東京・中目黒の目黒川沿いに店を構えるアウトドアウェアのセレクトショップ、「BAMBOO SHOOTS(バンブーシュート)」をご存知だろうか。約15坪のコンパクトな店舗だが、長年アウトドアファッション好きには聖地のひとつのような存在として知られ、現在も同じ場所で変わらぬ人気を保っている。
編集人も2000年代初頭に雑誌で頻繁にクレジットを目にしたこのショップを訪ね、以降何度かお邪魔しているが、少しマニアックな商品構成と独特なショップの雰囲気が強く印象に残っている。
このショップの名物店長であり、現在はショップとしての「BAMBOO SHOOTS」のメインバイヤー、そして同名のオリジナルライフスタイルブランド[BAMBOO SHOOTS]のディレクションも手がけているのが、甲斐一彦(かい かずひこ)氏だ。今回、ブランドとしての[BAMBOO SHOOTS]が2021年SSシーズンに大幅リニューアルするという報を受けて、甲斐氏、そして現在同ブランドのクリエイティブディレクターも務める編集者の石野亜童(いしの あどう)氏の両名に話を聞きに行った。
取材・文 武井幸久
Interview &Text Yukihisa Takei(HIGHVISION)
BAMBOO SHOOOTSの22年
今から約22年前の1998年。東京・中目黒の目黒川沿いに、「BAMBOO SHOOTS」は誕生した。現在は目黒川沿いには多くのショップが林立しているが、渋谷、原宿といったファッションエリアから離れた場所への出店は当時まだ珍しかった。渋谷で古着屋の店員をしていたという甲斐一彦は、[WILD THINGS(ワイルドシングス)]を中心にした数々のアメリカンブランドの代理店であったSAWS COMPANY(株式会社 ソーズカンパニー)に入社し、このショップの店長に抜擢された。(※ 現在、株式会社バンブーシュートは株式会社サンリバーの関連会社となっている)
「お店を目黒川沿いにするのは、『春には桜も咲いて、川もあって、都会の中では自然が感じられるから』という当時のボスのアイデアでした。あの頃のこの辺は『オーガニックカフェ』があって、[A.P.C.(アーペーセー)]のサープラスがあって、あとは小林(節正)さんの『GENERAL RESEARCH(ジェネラル リサーチ)』があるくらい。僕自身は渋谷でしかやって来なかったので、この場所で大丈夫かなという思いもあったのですが、いざオープンしたら濃いお客さんばかりでした(笑)」(甲斐)
オープン当時に扱っていたのは、現在とは大きく変わらないラインナップだったという。
「18歳くらいの頃、渋谷や原宿の古着屋巡りばかりをしていた自分が『プロペラ』や『バックドロップ』で[GRAMICCI(グラミチ)]や[CHUMS(チャムス)]、[MOON STONE(ムーンストーン)]に出会って、その頃から頭の中はアウトドアブランド一色でした。入社したSAWS COMPANYは[WILD THINGS(ワイルドシングス)]をはじめ、自分も好きだった少し“奥ゆかしい”アメリカのアウトドアブランドを沢山取り扱っていいて、他にはあまり売っていなかったので、そういうブランドをお店に並べて。アメリカで新しいブランドを見つけてきたり、いわゆる“持ち帰り”(=平行輸入)もやっていましたね」(甲斐)
当時の日本は幾度目かのアウトドアブーム真っ只中。ストリートファッション誌もこぞってアウトドアウェアを取り上げたこともあり、「別注、日本未発売、旧タグなど、レア商品ほど売れた」という。
そうした中で、当時人気雑誌『Boon(ブーン)』のライターとして、「BAMBOO SHOOTS」に足繁く取材をしたのが石野亜童氏だった。
「当時は甲斐さんも怖かったんです(笑)。商品を広げて見ていると、真横で片っ端からどんどん商品を畳んで行くんです。なかなかのプレッシャーでした。見たことない洋服やギア、雑貨などがギュウギュウに詰まっているお店なのに、なぜか凄然とした清潔感がある。その徹底した清潔感が、凄みというか意思というか、お店全体のオーラみたいなものを放っていたんですよね。お店にいくたびに違う発見ばかりだったので、その原因を探るべく、何度も取材させてもらいました」(石野)
マニアックな顧客に愛されて
2000年代頭にはファッション誌でクレジットを見ない号がないほど人気ショップとなった「BAMBOO SHOOTS」。当時ショップスタッフは人気職業だったこともあり、「お店でスタッフとして働きたい」という希望者も毎日のようにやってきたという。しかし「マニアックな商品にはマニアックな顧客あり」で、お客さんから“知識合戦”を挑まれることも。
「ある時、少し年上のお客さんに『お前、こんなもの売ってて山に行ってないの?』と絡まれて(笑)。その方にクライミングに連れていってもらったりして、今も仲良くさせていただいています」(甲斐)
現在では多くの人がキャンプやトレッキングを楽しむようになっているが、当時はまだアウトドアアクティビティは一般的ではなく、“アウトドアファッション”と“リアルアウトドア”は乖離している部分もあった。そうした中で「BAMBOO SHOOTS」は、甲斐をはじめとするスタッフ、アウトドアメーカーの担当者や顧客と一緒に山にツアーに行ったりするなど、ギアとファッションの隙間を埋めるような試みも行ってきたという。
日本人がアウトドアファッションに惹かれる理由
実際、アウトドアにも一定のブームがあるように、アウトドアファッションもトレンドに左右される。「ハイブランドが流行した時期にはお店は閑散としていた」と甲斐が話すように、日本のアウトドアブームにも波がある。近年は情報量やSNSの効果もあり、アウトドアファッションもアウトドアアクティビティもそれぞれ成熟している時期かもしれない。それにしてもなぜ日本ではアウトドアがこれだけ根付いているのかが気になって、甲斐に尋ねてみた。
「日本は関東だけ見渡しても、山はいっぱいあるんですよね。キャンプ場もたくさんあるし、ある意味サーフィンよりも行きやすいアクティビティです。その地理的なこともありますが、僕が以前雑誌『Spectator(スペクテイター)』の「マウンテンハイライフ」という特集をお手伝いした時に、日本のアウトドアの源流を調べていたら、(登山家の)植村直己さんや、『日本山岳同好会』という山登りのプロフェッショナルな団体があって、世界的な登頂記録も持っています。その影響力も強かったみたいです。その辺から始まって、そこから“ヘビーデューティ”ブームとか(雑誌)『POPEYE(ポパイ)』などもあり、70年代、80年代に加速して行ったのでは、と考えています」(甲斐)
“自分が売り続けられるもの”がBAMBOO SHOOTSのセレクト基準
「BAMBOO SHOOTS」に置いてあるブランドやアイテムは、“ワンシーズン限り”のようなものより、何年にも渡って取り扱っているものが多い。[WILD THINGS]や[ARC’TERYX(アークテリクス)]に至っては1988年のオープン時から現在まで絶やすことなく取り扱い、他にも[Patagonia(パタゴニア)]やシューズの[KEEN(キーン)]、バックパックの[OSPREY(オスプレイ)]、クライミングパンツの[GRAMICCI]なども長年同店のスタメンになっている。「BAMBOO SHOOTS」でセレクトするブランドや商品の基準はあるのかを聞いてみた。
「まずは僕らが“売り続けられるかどうか”が一番の基準ですね。親会社が卸屋であったこともあり、なかなか途中で『扱いやめます』って言えないんですよ。うちの売上なんてそのブランドには大したことないと思いますけど、会社や担当者とかの人との繋がりも大事にしたい。次点として言えば、みんなが知らないことが詰まっていたり、目立たないけど凄いことをやっていたり、さらに改善の余地があったりするモノであることですね。『ここはこうした方がいいんじゃないの?』とメーカーの人に気軽に言えたり。そういう関係性も作れるブランドってそんなに増えていかないから、ラインナップも変わらないんです。だからセールは僕らにとって屈辱なんですよ。店頭で反省会と懺悔をやっているようなものですからね」(甲斐)
セレクトではできない表現としてのオリジナルブランド
セレクトショップとしての「BAMBOO SHOOTS」が、オリジナルブランドの展開をスタートしたのは2013年だった。甲斐のこだわりを詰め込んだシャンブレーシャツを店頭のみのプライベートブランドとして展開したが長続きせず、2016年にラインナップを揃えて復活。しかし、甲斐の中にはまだ迷いも多かったことから、長年の理解者である編集者の石野亜童氏に相談した。
「甲斐さんというアウトドアを見続けた人の知識とバイヤーとしてのセンス、中目黒に根を張った歴史のあるお店など、たくさんの魅力的な“お宝”はいっぱいあるけど、ブランドとしては表現し切れていないと感じました。最初はビジュアルやカタログを作ったり、外側のお手伝いでしたが、徐々にものづくりを含めたブランド全体を考える方向で方で関わることになったんです」(石野)
甲斐は20年以上「セレクト」で店を表現することを続けているが、セレクトだけで表現できることの限界も感じていた。そこで自分が持っている知識やセンスをパッケージ化できる石野氏、そして古着屋出身であり、絶大な信頼がおける友人のパタンナーとの完全3人体制で、新生[BAMBOO SHOOTS]ブランドをリスタートすることにした。それがこの2021年SSシーズンから展開されるものだ。
「アウトドア生まれ、中目黒育ち」のブランド
ファッションにおける中目黒は少し独特な街だ。渋谷や原宿にあるものが全国区なものだとすれば、中目黒はカウンター的であり、時に天邪鬼であり、その分、「東京のリアル」がある。それを自覚しながら今回[BAMBOO SHOOTS]が内側に掲げたキーワードは、「アウトドア生まれ、中目黒育ち」。
この独特な空気の流れる中目黒の街で22年も根を張り続ける「BAMBOO SHOOTS」から発信しること、そこにアウトドアスタイルを見続けた甲斐一彦の知識や目線をプロダクトに落とし込むという方向で舵を切ることにした。アイテムはベーシックなものが7割で、残り3割はシーズンのこだわりやコラボレーションなどの凝ったものを展開する。
「結局僕が好きなものはシンプルなもの、普通なものなんですよね。その中にウチにしかできないことを入れようと。アウトドアフィールドで培われたディテール、ヴィンテージのワークブランドや軍モノのディテール、それぞれのカルチャーで必然的に生まれた機能美をパターンやデザインに取り入れています」(甲斐)
特にこだわったのが“シャンブレーシャツ”。1950年代の古着を参照しながら、インディゴ染料にこだわり、生地はタテ糸もヨコ糸もデニムにこだわり、脇の部分には「シャツをタックインして手を上に上げても裾が出ない」、発明とも言えるような特殊なオリジナルパターンを採用した。
“ファティーグパンツ”は、いわゆる軍パンのボタンやフラップを減らしながら、軍パンらしさを残したシルエットの良いパンツに仕上げた。また“コーチジャケット”には、ヴィンテージアウトドアやミリタリーのディティールで機能性と表情を加えた。
そして2021年のテーマである「バックパッカー」を取り入れたプロダクトでは、“中目黒の先輩”でもある[GENERAL RESEARCH]の小林節正氏ともコラボレーションし、とことんまで革新的なプロダクト作りにこだわった。それが60/40クロスで作ったややロング丈の“マウンテンパーカ”にも強く表れている。これは後ろのジップを開くと「インパーテッドプリーツ」が現れる。つまり背負ったバックパックの上から着用できるように、プリーツをジッパーで開閉できる仕組みだ。
NAKAMEGURO(ナカメグロ)の温度感がある服
「中目黒から奥多摩に電車で焚き火しに行って、そのまま戻ってきて『いろは寿司』(※中目黒を代表する庶民派寿司屋)にも行ける服」と石野氏が話すように、どのアイテムも程よい温度感と機能が備わっていて、良い意味での“普通さ”を担保しているのが新生[BAMBOO SHOOTS]ブランドだ。この“普通さ”こそ、当メディア『inGENERAL(インジェネラル)』が掲げる「ワンランク上のスタンダード」にも近い。
「普通って一番難しいんですよね。“普通がカッコいい”と分かるまでには膨大な経験と蓄積が必要で。新生[BAMBOO SHOOTS]に流れる裏テーマは“おじさんの普段着”。自分のパーソナリティを理解して、酸いも甘いも経験し、トレンドに踊らされることなくやるべき仕事はきっちりやる。40歳を超えたおじさんだからたどり着ける“普通”がどれだけ格好いいか、楽しみにしていてください(笑)」(石野)
[BAMBOO SHOOTS]ブランドは、中目黒のショップだけでなく、その他のセレクトショップでも販売される。コロナ渦中に開かれた展示会では、オンラインも駆使することでバイヤーたちに大きな賛同を得て、「JOURNAL STANDARD(ジャーナルスタンダード)」や「乱痴気」、「BEAVER(ビーバー)」など、全国のこだわったセレクトショップでも展開されることになっている。
そしてブランドの核となるベーシックなアイテムは、アップデートも含めて継続的に展開する予定だという。「お店自体ずっとそうやって良いものは置き続ける方法でやっているんで、ブランドもそういう作りをしないと始まらないんですよね」と甲斐が話すように、この[BAMBOO SHOOTS]ブランドの中からも、今後数々の「ワンランク上のスタンダード」が輩出される予感がする。
[CONTACT]
BAMBOO SHOOOTS (バンブーシュート)
東京都目黒区上目黒1-5-10 中目黒マンション107号
TEL : 03-5720-1677
https://www.bambooshoots.co.jp
BAMBOO SHOOTS WEAR
https://www.bambooshoots.co.jp/category/A011237/
BAMBOO SHOOTS 2021SS コレクションのLOOKはこちらから。
Model : KEN KAGAMI
Photo : KENGO SHIMIZU
Styling : DAISUKE ARAKI
Creative direction : ADO ISHINO(E inc.)
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