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Lifestyle

2020.07.01

ヒップホップの誕生にも影響を与えた? ターンテーブルの名機 Technics(テクニクス)SL-1200シリーズとは

『SL-1200の肖像』著者で、雑誌『GROOVE(グルーヴ)』の元編集長・細川克明さんに聞いたグローバルスタンダードな名機の魅力

ヒップホップの誕生にも影響を与えた? ターンテーブルの名機 Technics(テクニクス)SL-1200シリーズとは

Content

アナログレコードの復権とターンテーブルの名品

DJ機材のグローバルスタンダード

音楽環境の変化を受けて一時生産を終了

復活を果たした名機

歴史を感じながら使い続けられる逸品

アナログレコードの復権とターンテーブルの名品

配信やサブスクリプションが音楽の聴き方のニュースタンダードになる一方、近年はヴァイナルとも呼ばれるアナログレコードの復権も著しい。世界中の都市部でレコードショップが復活し、日本でもHMVがレコードショップをオープンするなど、音楽メディアとしてのレコードの存在価値が再び向上している。そうした状況をよそにCD全盛になった90年代以降もレコードを使い続けてきたのがDJの方々。レコードプレイヤーではなくターンテーブルと呼ばれる機材を駆使し、クラブのフロアやイベントを盛り上げながら新しい音楽シーンを開拓してきたが、その中で常に多くのDJたちが使い続け、ターンテーブルの名機と呼ばれているのが[Technics(テクニクス)]のSL-1200シリーズだ。

Technics SL-1200の魅力を1冊にまとめた人物

細川克明 / 1972年生まれ。SL‐1200シリーズを使い始めて四半世紀の編集者/ライター。雑誌『GROOVE』編集長として国内外で多くのDJたちを取材してきており、その数は延べ500名以上。

『Technics SL-1200の肖像 ターンテーブルが起こした革命』(リットーミュージック)¥1,980

『Technics SL-1200の肖像 ターンテーブルが起こした革命』(リットーミュージック)¥1,980

DJ機材のグローバルスタンダード

ターンテーブルを出しているメーカーはいくつか存在するが、細川さん曰く、SL-1200シリーズはDJの間ではグローバルスタンダードになっているモデルだという。そのシェアは何と世界中のクラブで90%以上。ひとつのメーカーの機材がなぜそこまでの定番的存在になっているのだろうか。

「世界中のDJたちが自宅でも“SL-1200”を使い、さらに彼らの仕事場でもあるクラブにも同じものが置いてあるということが大きいと思います。DJたちはレコードは現場に持っていきますが、ターンテーブルを持参することはほとんどありません。彼らも自宅などで練習をするわけですが、それと全く同じ環境で本番に臨める。そういうシームレスな存在として“SL-1200”がスタンダードになっていった背景があります」

SL1200DJの間でスタンダードとなった契機としては、1979年に登場したシリーズ2代目である “SL-1200 Mk2(マークツー)”の存在が大きいという。レコードの回転速度を変える「ピッチコントローラー」をシンプルなスライド式にして配置したことで、大幅に使い勝手が向上。2台のターンテーブルを使っての音楽表現の自由度が上がり、シンプルな操作でのDJプレイが可能になった。

これがピッチコントローラー。SL-1200Mk2登場以前はこの機能は重視されていなかったため、小さなツマミで行っていた。

「もちろんそれだけでなく、日本のメーカー特有の製品の精度や堅牢さといった部分でも他を圧倒していたんです。必要にして十分な機能、その完成度も当時から素晴らしかったのです。[テクニクス]は独立したメーカーのように認識されていますが、元々は松下電器の音響ブランド。現在も[Panasonic(パナソニック)]の一部門です。個体差のブレが少ない日本の優れた製品作りも世界中のDJたちにとっては大きな安心材料であり、そういう信頼がシェアを広げていった背景にあります」

ヒップホップミュージックの誕生にも関係?

レコードを楽器のようにして使うことで生まれたのが、ヒップホップミュージック。この音楽が生まれた背景にもSL-1200は大きく関係していると細川さんは言う。

 「『ターンテーブルを2台使いし始めたのは誰か』、『最初にスクラッチをしたのは誰か』といった議論はよく話に上がるのですが、1970年代後半から80年代前半にかけては、こうした音楽の楽しみ方はアメリカのストリートで同時多発的に起こっていたので、誰、という確証はありません。記録もはっきりしないので、変な話声の大きい人が勝つようなところもあると思いますが、それでも“SL-1200 Mk2”の存在がヒップホップミュージックの誕生にも寄与したことは間違いないでしょう。ひとつの機材が音楽の形成にも直接的に関係しているという意味でもSL-1200は特別な存在なのです」

細川さんが編集した雑誌『GROOVE』の2015年最終号の特集は「DJカルチャーの歴史」。この中にもSL-1200シリーズの存在は欠かせない。

音楽環境の変化を受けて一時生産を終了

細川さん自身も“SL-1200のユーザーで、大学卒業後に出版社のリットーミュージックで働き始めた際にボーナスで、1989年発売のロングセラーモデルSL-1200 MK3D(マークスリーディー)を2台まとめて購入。自宅でDJを楽しむようになり、時々イベントなどにも呼ばれるように。当時の価格で6万円くらいのものを2台購入したので12万円ほどだったが、20年以上経った現在も現役で使えるという。「とにかく壊れないので、新しいものを買う必要がなかったんですよね」

 しかし、長年ターンテーブルの王者として君臨してきた“SL-1200シリーズも、2008年発売の“SL-1200 MK6マークシックス)”が2010年に販売終了を宣言。その理由としては”DJバブルとも呼ばれた90年代から2000年代前半を経て、2000年代後半になると、iPod(アイポッド)などが音楽リスニングの主流になり、レコードのプレスもほとんどなくなってしまたことなどから、マーケットの拡大が難しいという判断があったようだ。

細川さんの自宅には約4000枚のレコードが。「常に売ったり買ったりを繰り返しているので、これまでに購入したのは1万枚くらいになっているかもしれない」そう。持っているレコードの多くはジャズやレアグルーヴ系。

復活を果たした名機

しかし昨今は再び世界中でアナログレコードが復権し、中古レコードも価格が高騰。さらにミュージシャンたちも新しい音源をレコードでもプレスすることが増えてくるなど、メディアとしてのアナログレコードも息を吹き返した。そうした中で2019年についに[テクニクス]はSL-1200シリーズの最新モデルSL-1200 MK7(マークセブン)をリリース。世界中のDJや音楽ファンを歓喜させた。長年このシリーズを見続けてきた細川さんには、このニューモデルの登場はどのように映ったのだろうか。

「見た目的にほとんどこれまでのものと変わっていないのに、中身は大きく進化を遂げていました。本を執筆するに際してメーカーの方にもいろいろお話をお聞きしたのですが、モーターや小さなベアリングなど、音質向上や安定性に関係する内側の部品などが大幅にアップデートされたようです。この10年ほどでそうした生産技術がかなり進歩したということでした。自分自身はターンテーブルを楽器のように駆使するDJではないので、操作感の微細なところは判別しづらいのですが、過去のモデルと聴き比べしてみて、まだアップデートできるんだと驚きましたね」

細川さんのSL-1200の取材ノート。メーカーやトップDJの人にも丁寧に取材を重ねた。

歴史を感じながら使い続けられる逸品

 

1冊の本にもなるほど濃いSL-1200シリーズの歴史。最新モデルSL-1200 MK7の登場によって、またその歴史は更新されるものになった。しかしながら新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によって、現在世界中のクラブや音楽イベントは動きを止めている状況にあり、クラブ施設やDJカルチャーの存続も危ぶまれる声はある。しかし、この状況が緩和され、安心して音楽イベントを楽しめることになった時に、またこのターンテーブルがDJたちによって華麗に駆動し、オーディエンスを楽しませる日はきっと来るはずだ。その日を心待ちにしながら、いまも“SL-1200は音楽好きたちの自宅でレコードを回し続けている。

[INFOMATION]
Technics SL-1200MK7
メーカー希望小売価格 ¥90,000+TAX
UER : https://jp.technics.com/products/1200mk7/

取材・文 ・ 撮影 : 武井幸久(HIGHVISION)
編集協力 : 細川克明 / パナソニック株式会社

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音楽環境の変化を受けて一時生産を終了

復活を果たした名機

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