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2020.11.09

栗野宏文 著 『モード後の世界』を読む[編集人ブログ]

「ユナイテッドアローズ 創業者のひとり、栗野宏文による社会潮流の読み方」を読んで考えたこと

栗野宏文 著 『モード後の世界』を読む[編集人ブログ]

Content

日本、世界のファッションを見続けてきた第一人者による「現代のファッション考」

少し遠い存在だったユナイテッドアローズ

アフターコロナだからこそ読むべき本

日本、世界のファッションを見続けてきた第一人者による「現代のファッション考」

地方に住んでいる当メディアの編集人は、長い電車の移動中はできるだけ本を読むようにしています。ウェブメディアを運営しながら言うのも何ですが、ネットニュースやSNSは中毒性が高いせいか流動的に見続けてしまい、その費やした時間の割に得るものが少なかったりします。(このサイトはできるだけ「得るものがあるもの」にしたいですが。)どうせ自分もちょっとした合間や寝る前後にスマホは見るので、まとまった時間が取れたら読書をするように心がけているというわけです。

Kindleで読むことも多いのですが、最近は物理的な本を買うことも再び増えています。紙の本を買う時の基準は「佇まいの良いもの」。装丁と内容のバランスが良さそうな本を選んで買っています。今回購入したのは、[UNITED ARROWS(ユナイテッドアローズ)/ 以下 UA]の創業者のひとりで、現在も同社の上級顧問でクリエイティブディレクションを担当されている栗野宏文さんの著書『モード後の世界』(扶桑社)。装丁も良さそうだし、自分が近年気になっていたことそのものがタイトルから感じたのでAmazonから購入しました。

栗野さんにお会いできたことはないのですが、当然ファッション界隈でうろうろしている編集人のような人間にとっては知らない者はいない存在。昔から雑誌でもよく取材されていましたし、近年は数々のファッションメディアでの俯瞰した視点からのインタビューなども拝見していました。とにかくお洒落な方という印象と、その外見も含めて非常に知的な雰囲気の方だと認識していましたが、この本を読んで本当にその通りの方なのだと分かりました。文章の冷静な状況分析や言葉選びからもそれが伝わってきます。

本のタイトルは「モード後の世界」となっていますが、何か“ずばりの答え”が載っているわけではありません。ただし、現在から過去までを見通した上で、ファッションが直面している現状への分析や警鐘、そこに日本の第一級のファッション人としての栗野さんのこれまでの歩みや考え方の基本姿勢などが綴られています。経験的なものも含め、栗野さんが[UA]で行ってきたことに関する記述は多めです。ただし成し遂げたことも、ご本人的に失敗と感じていることも素直に書かれていることに好感を持ちました。

少し遠い存在だったユナイテッドアローズ

ちなみに僕自身にとって、[UA]はあまり身近なセレクトショップではありませんでした。良いものがあるのは分かっているのですが、何となく自分にとっては「やや上品」な印象で、若い頃からスーツもほとんど着ないせいもあって、服を買いに行く店の選択肢に上がってこなかったのです。どちらかといえばカジュアルで、もう少しカルチャー色の強い「BEAMS(ビームス)」派。自分の買い物も、お仕事でご一緒したのも「ビームス」の方が多いです。

20歳の頃、若いくせにやたら金を持っていたイケすかない同級生が「君たちはまだ分からないだろうが、ユナイテッドアローズは素晴らしいセレクトショップなのだよ」と熱弁していたのを覚えていて、妙に反発心が残っていたのもあるかもしれません(笑)。今は全くそんなことないですし、特に栗野さんが立ち上げた「Distorict(ディストリクト)」は個人的にも気になるもの満載のショップです。

そこまで[UA]のことが分かっていないという前提、加えて僕個人はファッションの裾野にいる人間だと思いますが、栗野さんがこの本で書いておられることは全体的に、自分が近年感じていたことの多くのことの確信を持てたような読後感でした。

アフターコロナだからこそ読むべき本

この本は、おそらく「コロナ前」に書かれたであろう本編に、コロナ渦後に書き加えられた前書き「はじめにの前に」と「モード後の世界 あとがきに代えて」があるのですが、その本編の内容はコロナ前と何か相違があるかというとまるでなく、むしろ本編で書かれていたことがコロナによって決定的になったような印象を持ちました。

文を読むと分かりますが、栗野さんはトラッド、モード、カジュアル、そしてその周辺のカルチャーまでを最前線で見続けてきただけでなく、本当にファッションに対する愛情が深い方。日本のセレクトショップが日本だけでなく世界のファッションに貢献してきたことは間違いなく、そういう意味でも栗野さん自身が[UA]を通してやって来られたことは、ファッション全体にも影響を与えたと言っても言い過ぎではないと思います。

この本では、その栗野さんによる社会的状況を踏まえたセレクトショップやモードの現状、ファストファッションの分析だけでなく、食や店についても触れ、ファッションを「自己と他者の関係」の原理として簡潔に表現したり、「なぜ日本にはラグジュアリーブランドがないのか」、そしてサステナビリティ、ダイバーシティなどのさまざまな事象が、鳥瞰の視点と現場主義ならではの視点で書かれています。

服のトレンドだけでなく、時事/社会問題まで含めて書いてあるところに深度を感じますし、その根底に流れているのは服に対する変わらない愛情があることも読み取れました。特に「西洋的価値観の行き詰まり」、「流行よりマイビンテージ」、「お洒落とは生き方の問題」といった見出しの項は、個人的に深く頷くところが多かったです。

編集人がコロナ自粛のまっただ中でこの『inGENERAL(インジェネラル)』というメディアの立ち上げを考えた時にその後押しとなったのは、どちらかというとネガティブな感覚と行き詰まり感でした。

流行」という字の如く、まさに流れ行くように起こっては消えるファッション情報に食傷気味だったのと、ラグジュアリーブランドのクリエイティブディレクターが頻繁に入れ替わったりすること、買った服がすぐに更新され、社会的に「古いもの」にされてしまう感覚。そして露骨に戦略的な“限定品”。改良(アップデート)されたり、時代に合わせたシルエットやディティールになったりすることは歓迎でも、そういう「一過性のもの」、「話題になるためのものづくり」に加担するのはもういいや、という気持ちになっていました。それはコロナ自粛中だからこそ、かつて以上に強く感じたのだと思います。

SDGs」でも「つくる責任」を挙げていますが、メディアの立場も「伝える責任」はあるのではないか。だから自分なりに「このプロダクトは飽きが来なそう」とか「このアップデートは価値がある」と思ったものを中心に紹介しようと考えました。だから「ワンランク上のスタンダードを探すメディア」の目線で、“inGENERAL=普通”のものや、これからの普通になりそうなものをピックアップするよう心がけています。当然情報の取りこぼしもあるでしょうし、自分の視野が狭い部分もあると思いますが。

話が少し自分ゴトに逸れてしまいましたが、今回紹介させてもらった栗野宏文さんの『モード後の世界』を読んで、『inGENERAL』が少なくとも方向性は間違っていないことが分かった気がしました。

もちろん自分だけでなく、特にファッションのマーケットにいる人は読んで損はない本だと思います。

これから服やファッションはどうあるべきなのか。その答えは簡単ではないし、幸か不幸かコロナが示唆したものは、ファッションにとっても何か大きな意味がある気がします。自分も含めて何かヒントになるようなことを探している人には、考えるきっかけになる良書だと思います。(武井)

栗野宏文『モード後の世界』(扶桑社)
¥1,500+TAX
https://amzn.to/3eHAAmA

栗野宏文『モード後の世界』(扶桑社)¥1,500+TAX

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